研究紹介


サンショウソウ属の細胞分類学的研究
兼本 正 
 分類学とは、この世界に存在する生物群に対し、種数、内外部の構造、他の生物群とのかかわり合いを自然に問いかけていく学問分野ではないかと思います。細胞分類学は染色体の特徴を基本として、先に述べた問いかけに寄与する一分野といえます。染色体の特徴としては、数、形態があげられますが、数(染色体数)は比較的容易に認識され、その数の変化として、異数性と倍数性の二つがあげられます。染色体数が異なっていることは、ただ数字上の違いではなく、遺伝様式や変異性を獲得する様式に連結しており、これらより生物群の構成と進化の様相を描き出すことがある程度可能となります。
 現在、細胞学的な手法を用いて、イラクサ科サンショウソウ属(Pellionia)の分類学的関係や進化的相互関係について研究を行っています。サンショウソウ属は東南アジアと南中国を中心に50種類ほど知られており、日本では西日本、四国、九州、流球列島の照葉樹林や杉林の湿った林床などに普通にみられる植物です。これらの種の分類学的取扱いには見解の違いがあり、また一部の種類は限られた地域にしか分布しないため、詳細な研究はなされていません。
 これまでの研究でサンショウソウ属のサンショウソウ(P.minima Makino)、オオサンショウソウ(P.radicans(Sieb.et Zucc.)Wedd.)、キミズ(P.scabra Benth)について染色体数が明らかになりました。オオサンショウソウの染色体数(2n)は52と安定していますが、サンショウソウは集団によって染色体数が39、52、65と大きく変化し、またキミズでは39と52が確認されています。サンショウソウは形態的に多様であることから、サンショウソウの染色体の数の変化と形態的な多様性はなんらかの関係があるのではないかと考えています。またキミズは染色体数が39の個体には茎に短く硬い毛が密に生えており、染色体数が52の個体と形態的に異なっていることが明らかになっています。
 
今後、さらに調査対象地を増やして、地理的な染色体数の変化と染色体の形態を明らかにし、サンショウソウ属における分類学的な問題点と種間の相互関係について明らかにして行きたいと考えています。


サンショウソウ
暖地の暗い湿った林に生えるコウボウフデ


サンショウソウの染色体
A〜C:サンショウソウの体細胞分裂中期の染色体。Aは三倍体(2n=39)Bは四倍体(2n=52)、Cは五倍体(2n=65)。Dはサンショウソウと近縁なオオサンショウソウの体細胞分裂中期の染色体で、四倍体(2n=52)。スケールは1μm。