研究紹介


絶滅した(?)氷見市のサンインギク
企画情報課長 中田政司 
 サンインギクは山陰菊の意味で、島根県で発見されたものを基準として、1934年に新種発表されたものです。その当時から氷見市の海岸にサンインギクがあることが知られていて、分布の北限とされてきました。このサンインギクの実態を調べるため、1998年に、許可を得て氷見市大境の30個体を採集して形態や染色体数などを調べてみました。
 写真はその時に採集された個体の花(頭状花)です。舌状花の色、長さ、数に大きな変異があることがわかります。葉の形態も多様でした。サンインギクの染色体の数は通常54本(2n=54)ですが、観察した30個体のうち正常なものは18個体しかなく、残りの12個体には染色体が1〜2本多いものや少ないもの、また余分に小型染色体を持つものなどの異常が見られました。花粉の稔性にも異常が見られました。
 これらの事実や、サンインギクの個体群中に家菊(園芸菊)が植えられていることなどを考えあわせると、大境のサンインギクは純粋な野生ギクではなく、家菊との交雑が進んだ雑種個体群であると推察されました。家菊の品種の数は数百あると思われますが、小輪菊は54本±数本の染色体を持つものが多く、また余分な小型染色体を持つ品種もあることから、大境のサンインギクに見られた染色体の変異を説明できるからです。
 
氷見市の海岸のサンインギクは、1966年頃はほとんどが黄花であったと文献に記されています。それが今では約半数が白花に変わってしまっています。道路の拡幅や海岸の護岸工事で個体数が減っただけでなく、家菊との交雑が進んで質的に変化し、今や個体群としては絶滅してしまったものと判断されます。
 サンインギクだけでなく、ノジギクやシオギク、イソギクなど海岸に生育する野生ギクにも家菊との雑種がよく見られます。これらは人家に植えられた家菊や祠に献花された家菊から、ハナアブなどによって花粉が運ばれて生じたと考えられています。開発や採取による数の減少だけでなく、他種との交雑による「遺伝的汚染」もまた、野生植物を絶滅に導く要因の一つなのです。